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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)8430号 判決

原告

ハント・ヒル・アンド・ベッツ法律事務所

右代表者

ウイリアム・ローガン・ジュニア

原告

ウイリアム・ローガン・ジュニア

原告

ジョージ・エス・バーナード

原告ら代理人

松永芳市

外一名

被告

鋼管鉱業株式会社

右代表者

槇田久生

右代理人

山本耕幹

外一名

被告

丸紅飯田株式会社

右代表者

檜山広

右代理人

大室亮一

外五名

被告

シグ・カタヤマ

右代理人

高橋俊郎

外一名

主文

一  原告らの請求は、いずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一  請求の趣旨

一  原告ハント・ヒル・アンド・ベッツ法律事務所

(一)  主位的請求―「被告らは、原告ハント・ヒル・アンド・ベッツ法律事務所に対し各自金三六、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三四年四月二〇日以降支払い済みまで、年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求める。

(二)  被告丸紅飯田株式会社に対する予備的請求―「被告丸紅飯田株式会社は、原告ハント・ヒル・アンド・ベッツ法律事務所に対し金一四、五八〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三四年四月二〇日以降支払い済みまで、年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、同被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求める。

二  原告ウイリアム・ローガン・ジュニア、同ジョージ・エス・バーナード

(一)  主位的請求―「被告らは、各自原告ウイリアム・ローガン・ジュニアに対し金一二、九一三、二〇〇円、原告ジョージ・エス・バーナードに対し金一、五六四、二〇〇円およびそれぞれこれに対する昭和三八年一月二七日以降支払い済みまで、年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求める。

(二)  被告丸紅飯田株式会社に対する予備的請求―「被告丸紅飯田株式会社は、原告ウイリアム・ローガン・ジュニアに対し金五、二二九、八四六円、原告ジョージ・エス・バーナードに対し金六三三、五〇一円およびそれぞれこれに対する昭和三八年一月二七日以降支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、同被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求める。

第二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら全員)

一  原告ハント・ヒル・アンド・ベッツ法律事務所の訴に対する本案前の答弁―「原告ハント・ヒル・アンド・ベッツ法律事務所の訴を却下する。訴訟費用は、同原告の負担とする。」との判決を求める。

二  本案の答弁―「主文と同旨」の判決を求める。〈中略〉

第三  原告ハント・ヒル・アンド、ベッツ法律事務所の主張

一  請求原因

(一)  本件紛争に至る経過

被告シグ・カタヤマは、もと訴外メタル・エクスポーツ・インコーポレーテッド(パナマ国法人。以下単にメタルという。)の取締役副社長であつたが、昭和二六年一二月上旬原告ハント・ヒル・アンド・ベッツ法律事務所(以下単に原告事務所という。)のパートナーであるウイリアム・ローガン・ジュニア(以下単にローガンという。)に対し、マラヤ国ケランタン所在のテマンガン鉄鉱を被告鋼管鉱業株式会社(以下単に被告鋼管という)。および訴外朝日物産株式会社(同会社は後に商号を東京通商株式会社・東通株式会社などと変更した後、同四一年六月一日被告丸紅飯田株式会社に吸収合併された。以下単に朝日という。)と共同して開発する事業について原告事務所の援助を依頼した。右事業は、広い意味での右三社の共同事業であつた。すなわち、メタルはその所有する鉱業権を提供していわゆるロイヤルテイを受け取り、被告鋼管は採掘・輸入等をなし、朝日は貿易会社として両社間に入り、手数料をとつて契約の締結、ロイヤルテイの授受・輸出入の手続などをすることになつたものである。従つてメタル・被告鋼管・朝日は、原告事務所に対し共同して法律事務の処理を依頼したものである。ローガンは、右依頼により、同二六年一二月九日以降同二八年六月一八日までの間前後七回にわたり、右共同事業のための交渉、意見書の作成、鉱業権の譲り受けおよびその期間延長の交渉ならびにこれらに関する契約書の作成などの法律事務の処理に従事し、その間マラヤ国およびアメリカ合衆国にも赴き、マラヤ国政府との交渉、派遣技術者の入国問題の解決などの法律事務の処理に従事した。

(二)  被告らに対する請求原因

1 メタル・被告鋼管・朝日らの間において、同二八年六月一八日つぎの(1)(2)の、同月二五日頃までにつぎの(3)の、それぞれ約定がなされた。

(1) 被告鋼管は、メタルからメタルに属するテマンガン鉄鉱の鉱業権等を譲り受け、メタルあてその対価等として四、〇〇〇、〇〇〇円および右鉄鉱から将来採掘され船積みされた鉄鉱石一メトリックトンにつき米貨二〇セントの割合の金員(ロイヤルテイ)を、第一回船積開始の日から五か年間各荷揚後三〇日以内に支払うこと。

(2) 被告鋼管が採掘した鉄鉱石は、朝日が自己の業務として輸入すること。

(3) 朝日は、メタルの委任をうけ、その代理人として被告鋼管がメタルに支払うべき(1)のロイヤルテイを受領すること。

2 原告事務所の委任事務処理に対する報酬支払いのためつぎの約定がなされた。

(1) メタル・朝日は、同二八年六月二五日頃朝日が被告鋼管から将来受領し、メタルに交付すべき前記ロイヤルテイのうち、一メトリックトン当り五セントの割合で計算した金員は、メタルに支払うことなく直接原告事務所に支払うことを約した。

これは法律上第三者(原告事務所)のためにする契約であり、原告事務所は、その頃朝日に対し口頭で、あるいは遅くとも同三二年一〇月二日頃朝日に到達した書面で、右約定の利益を享受する旨の意思表示をした。

(2) 仮に右約定が第三者のための契約と解されないとしても、これは将来の債権を譲渡した契約とみるべく、すなわちメタルは、昭和二八年六月二五日頃原告事務所に対し、メタルが朝日に対して有する前記ロイヤルテイ交付請求権のうち右2(1)に該当する部分を譲渡し、メタルは、その頃朝日に到達した書面をもつてその旨通知した。

(3) 仮に右事実が認められないとしても、メタルは、同日頃原告事務所に対し、メタルが朝日に対して有する前記ロイヤルテイ交付請求権のうち前記(1)に該当する部分につき、原告事務所の報酬債権確保の手段としてその代理受領権を授与し、メタルは、その頃朝日に到達した書面をもつてその旨通知した。

3 採掘鉄鉱石の第一回船積は、同三三年五月二日に開始され、その後同年中に採掘され日本に陸揚された鉄鉱石は、到着の際の検量で合計298,386.34メトリックトンに達した。

4 しかるに、メタル・被告鋼管・朝日らは、同三四年四月頃前記1(1)(3)の約定に従つてロイヤルテイが支払われれは、原告事務所は朝日に対し前記2の債権ないし代理受領権を行使し得ること、原告事務所の右債権ないし代理受領権は、原告事務所の委任事務処理に対する報酬の支払いに代わるものであること、メタルには前記ロイヤルテイ交付請求権以外には資産がなく、原告事務所においてロイヤルテイに関する右債権ないし代理受領権を失なうときは報酬債権の満足を得られず、回復し難い損害を蒙ることを熟知しながら、原告事務所に無断で右ロイヤルテイの支払方法を根本的に変更し、被告鋼管は、同三四年四月二〇日頃朝日に対しロイヤルテイ全額の一括払いとして一六二、〇〇〇ドル(金五八、三二〇、〇〇〇円相当)の支払いをなし、朝日はこれをメタルの取締役社長であつた訴外イー・ジェイ・ボイルおよび被告カタヤマに交付し、その後直ちにボイルは所在不明となり、メタルは実体を解消し、原告事務所は、報酬の支いを受けることが不能となつた。すなわち原告事務所は、被告らおよび朝日の右行為により前記2において主張した債権ないし代理受領権を侵害されたものである。

5 その結果原告事務所は、金一〇〇、〇〇〇ドル(金三六、〇〇〇、〇〇〇円相当)の損害を蒙つた(昭和三三年度のテマンガン鉄鉱石の船積トン数は、約三〇〇、〇〇〇メトリックトンであり、同年以降五ケ年間の船積トン数は、少なくとも合計二、〇〇〇、〇〇〇メトリックトンを下廻らないので、前記2の約定に基づき同トン数につき一メトリックトン当り五セントの割合で計算すると、金一〇〇、〇〇〇ドルになる。)。

6 よつて原告事務所は被告ら(被告カタヤマは個人として共同加功)に対する共同不法行為を理由として、被告らに対し各自右損害およびこれに対する不法行為の行なわれた同三四年四月二〇日以降支払い済みまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。

(三)  被告丸紅に対する予備的請求原因

前記(二)2(1)(2)で主張したように、原告事務所は、朝日に対し、第三者のためにする契約または債権譲渡契約の結果、朝日がメタルの代理人として被告鋼管から受領するロイヤルテイのうち一メトリックトン当り五セントの割合で計算した金員、すなわち右ロイヤルテイの四分の一相当の金員の交付請求権を取得した。そして前記のように、朝日は被告鋼管より一六二、〇〇〇ドルのロイヤルテイを受領したから、原告事務所は、朝日に対しその四分の一である金四〇、五〇〇ドル(金一四、五八〇、〇〇〇円相当)の金銭債権を有するに至つた。よつて原告事務所は、朝日の承継人である被告丸紅に対し予備的に、右金員およびこれに対する朝日が前記ロイヤルテイを受領した日である昭和三四年四月二〇日以降支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払よう求める。

二  被告らの本案前の抗弁に対する原告事務所の答弁

(一)  原告事務所は、アメリカ合衆国ニューヨーク州パートナーシップ法に準拠して同州において設立されたパートナーシップであること、同法第六二条第四項は、パートナーの死亡によりパートナーシップが解散する旨規定していること、原告事務所の改訂契約書は、パートナーが死亡しても解散することはない旨規定していること、パートナーのうちジョージ・ホワイトフィールド・ベッツ・ジュニアが被告ら主張の日死亡したこと、原告事務所が法人格を有しないことは認め、その余は争う。

(二)  原告事務所は、昭和三一年初頭来一般法律事務の業務を停止しているが、何ら解散理由なく、ハント・ヒル・アンド・ベッツの名称をもつて存続している。

(三)  当事者能力の有無については、本国訴訟法をもつて準拠法と解すべきであるところ、ニューヨーク州民事訴訟法によれば、パートナーシップは当事者能力を有するとされている。仮りに法廷地法説をとるとしても、原告事務所は各パートナーにより代表され、かつ各パートナーとは別個の活動をなすもので、社団の実体を備え、代表者の定めもあるから、民事訴訟法第四六条により当事者能力を有する。日本国とアメリカ合衆国間の友好通商航海条約第四条第一項・第二二条第三項によれば、原告事務所に当事者能力が認められることは明白である。

三  被告カタヤマの抗弁に対する答弁と同被告に対する再抗弁

被告カタヤマの抗弁は争う。被告らは連帯債務を負うものであるところ、原告事務所は、不法行為のときから三年の期間内である昭和三七年四月一七日連帯債務者である被告鋼管、同丸紅に対し内容証明郵便で履行の請求をし、右郵便は、翌一八日または一九日同被告らに到達したので、これによつて被告カタヤマに対しても時効中断の効力が生じた。

第四  被告らの原告事務所主張に対する主張

一  原告事務所の訴に対する本案前の抗弁

(一)  代表権限

原告事務所は、アメリカ合衆国ニューヨーク州パートナーシップ法に準拠して同州において設立されたパートナーシップであるが、同州パートナーシップ法第六二条第四項によると、パートナーシップは、パートナーの死亡により解散するものとされている。原告事務所のパートナー間で締結された一九五五年一月一〇日付改訂契約書は、パートナーの死亡を解散原因から除外しているが、同州法の解釈上、このような除外規定の効力はないとされている。そして原告事務所のパートナーのうち、ジョージ・ホワイトフィールド・ベッツ・ジュニアは、一九五九年一月九日に死亡したから、原告事務所は同日限り解散したものである。ところで前記改訂契約書第七条第三項によれば、原告事務所の解散の場合、選任された三名の清算委員のみが原告事務所の清算人の地位と権限とを有すると定められているところ、本訴において原告事務所の代表者となつているローガンは、このような清算人ではない。よつて同人が代表者として提起された本件訴は、不適法である。

(二)  当事者能力

当事者能力については、法廷地法である日本法が準拠法であるが、原告事務所は法人格を有さず、またパートナー各人が原告事務所を代表しうるということは、結局代表者の定めがないことに帰着する。従つて民事訴訟法第四六条所定の社団にも該当しないので、原告事務所は、当事者能力を有しない。

二  請求原因に対する答弁

(一)  請求原因(一)について。

1 被告鋼管―被告カタヤマがもとメタルの取締役副社長であつたこと、ローガンが原告事務所のパートナーであつたこと、被告鋼管がテマンガン鉄鉱の開発事業に関係したことがあることは認めるが、その余は争う。被告鋼管は、メタルよりテマンガン鉄鉱に関する採掘権および土地の賃借権などを買い受け、独自の責任と計算とで右開発事業をなしたものであつて、原告事務所主張のような三社の共同事業としてなされたものではない。

2 被告丸紅―朝日の商号変更と合併とに関する事実、朝日がテマンガン鉄鉱の輸入業務を行なつたこと、被告カタヤマの地位は認める。同被告が原告事務所のローガンに対し援助を依頼したこと、ローガンのした仕事については不知。その余は争う。

3 被告カタヤマ―被告カタヤマがメダルの取締役副社長であつたこと、ローガンが原告事務所のパートナーであり、メタルの依頼によりテマンガン鉄鉱に関するメタルの事業につき原告事務所主張の事務の処理に従事したことは認める。その余は争う。

(二)  請求原因(二)について。

1 被告鋼管―請求原因(二)1の事業中、原告事務所主張の日に同主張の内容の約定がなされたことは認めるが、右約定の当事者は否認する。(1)の約定はメタル・被告鋼管間において、(3)の約定は、メタル・朝日間においてなされたものであり、被告鋼管は、メタルより(3)の趣旨の通知を受けてこれを承諾したものである。

同2の事実は不知。

同3の事実は認める。

同4の事実中、原告事務所主張の日に被告鋼管とメタル間においてロイヤルテイ支払方法を変更し、被告鋼管が朝日に対し原告事務所主張のとおりロイヤルテイの全額を一括払いしたこと、朝日が右金額を原告事務所主張の者に交付したことは認めるが、その余は否認する。原告事務所が、その主張のとおり朝日に対して債権ないし代理受領権を有するに至つたものとすれば、被告丸紅が無資産でない限り未だ損害を生じないはずである。

同5の事実中昭和三三年度以降五年間の船積トン数が合計二、〇〇〇、〇〇〇メトリックトンを下廻らないことは認め、その余は争う。

2 被告丸紅―請求原因(二)1の事実中、(1)の如き約定がメタル・被告鋼管の間にあつたことは認めるが、朝日は右契約の当事者ではない。(2)は認める。但し、被告ら三名間の契約に基づくものではない。(3)の約定がメタルと朝日の間においてなされたことは認める。

同2の事実は否認する。

同3の事実は認める。

同4の事実中、朝日が原告事務所主張の日にメタルの代理人として被告鋼管から金員を受領し(但し、金額は不知。)これをメタルに交付したことは認めるが、その余は否認する。

同5の事実中昭和三三年度以降五年間の船積トン数が合計二、〇〇〇、〇〇〇メトリックトンを下廻らないことは認め、その余は争う。

3 被告カタヤマ―請求原因(二)1の事実に対する認否は被告鋼管と同様である。

同2の事実中、メタルが(1)前段記載のような支払依頼を内容とする書面を朝日に送付したことは認めるが、その余は否認する。

同3の事実は不知。

同4の事実中、ボイルが所在不明となつたことは認める。その余の点に対する答弁は、被告鋼管と同様である。

同5の事実中昭和三三年度以降五年間の船積トン数が合計二、〇〇〇〇、〇〇〇メトリックトンを下廻らないことは不知、その余は争う。

(三)  請求原因(三)について(被告丸紅)。

主位的請求原因に対する答弁と同様である。

三  被告カタヤマの仮定抗弁と再抗弁に対する答弁。

仮に被告カタヤマの行為が原告事務所主張のように不法行為になるとしても、これを原因とする損害賠償債権は、不法行為の日の翌日である昭和三四年四月二一日から起算して三年後の同三七年四月二〇日の経過とともに時効によつて消減した。

原告事務所の再抗弁事実中、原告事務所主張の日に同主張の郵便が被告鋼管、同丸紅に到達したことは認めるが、その差出人はローガン個人であるから原告事務所のした請求とは認められない。仮にそうでないとしても、共同不法行為に基づく損害賠償債務は、不真正連帯債務であるから右請求は被告カタヤマに対しては時効中断の効力を有しない。

第五  原告ウイリアム・ローガン・ジュニア、同ジョジ・エス・バーナードの主張

一  請求原因

原告ローガン、同ジョージ・エス・バーナード(以下単にバーナードという)。は、原告事務所のパートナーである。ところで原告事務所の主張のように、原告事務所は、被告らに対し損害賠償債権ないしロイヤルテイ交付請求権(被告丸紅に対する予備的請求関係)を有するに至つたものであるが、原告事務所の右収入の配分については、パートナー間で、原告ローガン35.87パーセント、同バーナード4.345パーセントとする旨協定されていた。よつて同原告らは、それぞれ被告らに対し各自原告事務所の請求金額につき、右協定割合によつて計算したところの、請求の趣旨記載のとおりの金員およびそれぞれこれに対する本件訴状が被告らに送達済みとなつた翌日である昭和三八年一月二七日以降支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。

二  被告カタヤマの抗弁に対する答弁と同被告に対する再抗弁

原告ローガンは、原告事務所主張の日にその担当パートナーの立場で履行の請求したものであるから、その時効中断の効果は原告バーナードのためにも生じたものである。

第六  被告らの原告ローガン同バーナード主張に対する主張

一  被告ら

パートナー間の配分協定の点は不知。その余の点に対する答弁と主張とは、原告事務所の主張に対する答弁・主張と同様である。

二  被告カタヤマの原告再抗弁に対する主張

右原告ら主張の請求は、原告ローガン個人のなした請求にとどまるから、原告バーナードについては時効中断の効力がない。

第七  証拠関係

一  原告ら―甲第一・二号証、同第三号証の一・二、同第四ないし六号証、同第七号証の一ないし三、同第八ないし一〇号証、同第一一号証の一ないし三、同第一二ないし一五号証、同第一六ないし一八号の各一・二、同第一九号証の一ないし三、同第二〇ないし二七号証、同第二八号証の一・二、同第二九・三〇号証を提出。

証人森義男、同谷川一恵の各証言、原告事務所代表者(後に併合の結果原告本人を兼ねる。)・被告カタヤマ本人各尋問の結果を援用。

乙第一号証、丙第三・四号証の各一・二の成立は認め、その余の丙号各証の成立は不知。

二  被告鋼管―乙第一号証を提出。

証人森義男の証言を援用。

甲第一・二号証、同第三号証の一・二、同第七号証の一・二、同第一一号証の三、同第一五号証、同第一八号証の二、同第一九号証の一・三、同第二二・二三号証、同第二六・二七号証、同第二八号証の一・二の成立は不知。同第一三号証の成立は否認。同第三〇号証が写真であることは認める。その余の甲号各証の成立は認める。但し、甲第一八号証の一以下同第二八号証までの書証については、準備手続きの終結後提出されたものであるから異議がある。

三  被告丸紅―丙第一・二号証、同第三・四号証の各一・二を提出。

証人谷川一恵の証言を援用。

甲第四号証、同第六号証、同第七号証の三、同第一六号証の二、同第一七号証の二、同第一八号証の二、同第一九号証の三、同第二〇ないし二三号証の成立は認める。同第三〇号証が写真であるとは認める。同第一六号証の一、同第一七号証の一の官署作成部分の成立は認め、その余の部分の成立は不知。その余の甲号各証の成立は不知。但し、甲号証の提出についての異議は、被告鋼管と同様である。

四  被告カタヤマ―被告カタヤマ本人尋問の結果を援用。

甲第四ないし六号証、同第七号証の三、同第一一号証の一・二、同第一六・一七号証の各一・二、同第一九号証の一ないし三、同第二〇ないし二七号証の成立は認める。同第三〇号証が写真であることは認める。その余の甲号各証の成立は不知。但し、甲号証の提出についての異議は、被告鋼管と同様である。

理由

第一原告事務所の請求

一本案前の抗弁

(一)  原告事務所の当事者能力

原告事務所が、アメリカ合衆国ニューヨーク州法たるパートナーシップ法に準拠して同州において設立された法人格なきパートナーシップであることは、当事者間に争いがない。

ところで訴訟手続きは、元来当該法廷地国がその権限に基づき独自に定めた訴訟法に則つて行なわれるべきものであることはいうまでもなく、いかなる人またはその集合に当事者たる能力を認むべきかについても、訴訟に関する事項として法廷地訴訟法独自の判断で決定すべく、従つて、原告事務所の当事者能力の有無は、法廷地訴訟法たる我国民事訴訟法によつて決せられるものと解するのが相当である。もつとも、日本国とアメリカ合衆国との間の友好通商航海条約第二二条第三項は、「この条約において『会社』とは、有限責任のものであるかどうかを問わず、また、金銭的利用を目的とするものであるかどうかを問わず、社団法人、組合、会社その他の団体をいう。いずれか一方の締約国の領域内で関係法令に基づいて成立した会社は、当該締約国の会社と認められ、且つ、その法律上の地位を他方の締約国の領域内で認められる」旨規定しているけれども、ここにいう「法律上の地位」は当事者能力を含むと解することはできない。なぜなら当事者能力の有無については、別に同条約第四条第一項において、「いずれの一方の締約国の国民及び会社も、その権利の行使及び擁護については、他方の締約国の領域内ですべての審級の裁判所の裁判を受け………る権利に関して、内国民待遇及び最恵国待遇を与えられる……。」旨規定されており、アメリカ合衆国パートナーシップの当事者能力については、同条同項の適用をうけ、我国において内国民待遇(同条約第二二条第一項参照)を受けるにすぎないと解されるからである。そうすると、原告事務所が法人格を有しないものである以上、その当事者能力は、民事訴訟法第四六条によつて決せられることになるので、判断する。

〈証拠〉によると、原告事務所は、アメリカ合衆国ないしその州における弁護士を構成員(パートナー)とし、原告事務所の名をもつて一般法律事務を受任・処理する目的で設立されたこと、原告事務所の昭和三〇年(一九五五年)一月一〇日付改訂契約書(甲第一号証、以下定款という。)によつて、パートナーの加入・脱退・内部組織(議長・事務所支配人など)などのほか、パートナーシップ財産の特定・管理・処分の方法およびパートナーシップの代表方法(通常の業務については、パートナーは法律上すべての面において各自パートナーシップを代表してパートナーシップのため行為をする権限を有する)などが確定されていること、現実には、具体的な委任事務の処理を担当するパートナーがその事務処理に関連する事項についてまず、原告事務所を代表していることを認めることができる。このような原告事務所は、同法同条の「法人ニ非ザル社団……ニシテ代表者……ノ定アルモノ」に該当すると解するのが相当である。

(二)  原告事務所の解散の有無および代表者

1  被告らは、原告事務所はパートナーの死亡により解散したところ、本訴において原告事務所を代表しているローガンは、清算人でなく、代表資格を有しないと主張するので判断する。

このような代表資格の有無については、民事訴訟法第五八条の準用による同法第四五条が適用される結果、同条にいう「他の法令」である法例第三条第一項により、原告事務所の本国法に従うことになる。ところで、パートナーのうち少なくともジョージ・ホワイトフイールド・ベッツ・ジュニアが被告ら主張の日に死亡したことは当事者間に争いがないが、〈証拠〉によれば右改訂契約書第一条第三項は、「パートナーの死亡によつては原告事務所は解散しない。」旨規定していると認められるのに対して、〈証拠〉によれば、ニューヨーク州パートナーシップ法第六二条第四号は、「一人のパートナーの死亡によつてパートナーシップは解散する。」と規定していることが明らかである。しかし、既にパートナーシップ法自体新パートナーの加入はパートナーシップの存続に影響を与える旨の規定を何ら置かず、これを放任しているのであつて、パートナーの恒定がパートナーシップの性質上本質的な要素とみることはできず、右死亡を解散事由とする同州法の規定は任意規定にすぎないものと解される(Segall v. Altman 65 N.Y.S 2d 601; Wsight v. R. &L. Market, 9F R.D.559.)そうすると、右死亡によつては、原告事務所が解散したものということはできない。従つて原告事務所のパートナーであるローガンは定款所定の各自代表の原則に従い原告事務所を代表できること勿論である。

2 原告事務所がその他の原因によつて解散したか否かを検討する。

〈証拠〉によれば、定款は、「本パートナーシップは常勤組合員の過半数の議決により終了(ターミネイト)する。」(第一条第二項)と定めていることが明らかであるところ、原告事務所代表者尋問の結果によればかような議決をしたことはないことが認められ、その他右甲第二号証によつて明らかな前記パートナーシップ法第六二条第六三条所定の解散原因に該当する事実(約定期間の満了、約定事業の終了、パートナーの明示の意思、パートナーの事業よりの除斥パートナーの契約不履行、事業の不法化、パートナーの破産等)ありとも認められない。この限りでは原告事務所が解散して清算中であるとはいえない。

ところで、〈証拠〉によると、原告事務所のパートナーのうちハントを除く他の者は、昭和三一年(一九五六年)一月一日ニューヨーク州のパートナーシップであるマクナット・アンド・ナッシュ法律事務所のパートナーとともに、新たにヒル・ベッツ・アンド・ナッシュ法律事務所という名称のパートナーシップを設けたこと、原告事務所の日本における事務所は、その派遣パートナーの氏名の関係で、ヒル・ベッツ・アンド・山岡・ローガン法律事務所という名称に改め、同時にヒル・ベッツ・アンド・ナッシュ法律事務所の日本プランチともなつたこと、その際原告事務所で処理中の事件や債権債務であつて、ヒル・ベッツ・アンド・ナッシュ法律事務所に引きつがれることなく留保されたものがあり、原告事務所はこれらの事件の続行および債権債務の整理に限つて活動していることを認めることができる。しかも原告事務所は本訴において、当初「原告事務所はパートナーの合意により解散し、現在は清算目的のために存続しているものであつて、その東京事務所において清算事務を担当しているのはウイリアム・ローガン・ジュニアである。」旨陳述しながら(第六回準備手続調書)、その後被告らから右ローガンの代表権限を争われるや、にわかにその主張を改めて、原告事務所は、解散していない旨陳述するに至つた。このような弁論の全趣旨も併せ考えれば、原告事務所は清算中ではないかとの疑いを生ずるのである。

そこで念のためこの場合のローガンの代表資格について判断する。〈証拠〉によると、前記パートナーシップ法第六八条は、「別段の合意がない限りパートナーシップを不法に解散せしめたのでないパートナー……は、パートナーシップの事務を清算する権限を有する。」旨規定していることが明らかであるところ、〈証拠〉によると定款第七条第三項は、「パートナーシップの……解散の場合には、選任された三名以上のパートナーよりなる清算委員会が事業の処理または清算をなす権限を有する。」旨定めていることが認められる。そしてこのような清算委員会が明示に構成されたことを認めるに足る証拠はない。しかし、〈証拠〉によると、ローガンは、原告事務所のパートナーおよび死亡パートナーの遺産管理人全員の依頼をうけて本訴を提起したものであることを認めることができる。既に原告事務所が清算中であるとすれば、定款第七条第三項の清算人に関する特則を、所定の改訂手続き(右甲第一号証によると、定款第一〇条第一項は、「定款の改訂は、三分の二の多数決により、書面に作成して署名した時効力を発する。」と定めていることが認められる)により各自清算と改ることをせず、パートナー全員一致でパートナーの一名に、パートナーシップの名をもつてする訴の提起の権限を授与することは、ニューヨーク州法上禁止されるべきことはいえない。また、パートナーがすべて弁護士であつてみれば、我法上もこれを排除すべき理由はない。従つて、ローガンは原告事務所の代表権を有するものというべきである。

二、本案

(一)  本件各合意の成立

〈証拠〉によると、

1 メタルは、昭和二六年一二月頃原告事務所に対しマラヤ国ケランタン所在のテマンガン鉄鉱の鉱業権等を利用してこれを開発する事業について、関係者、マラヤ国政府等との交渉、契約書の作成等原告事務所主張の法律事務の処理を依頼し、原告事務所のパートナーであるローガンがこれを担当して右法律事務を処理したこと、

2 その結果同二八年六月一八日メタルと被告鋼管との間で、「メタルが当時有していた右鉱業権などを被告鋼管に譲渡し、被告鋼管は、メタルに対しその対価等として金四、〇〇〇、〇〇〇円および採掘され船積みされる鉄鉱石一メトリックトン当り米貨二〇セントの割合による金員(以下後者をロイヤルテイという。)を、第一回船積み開始日から五か年間各荷揚後三〇日以内に支払う。」旨の契約が締結されたこと、

3 メタルは、同月頃右鉄鉱石の輸入業者として予定されていた朝日に対し、メタルが被告鋼管より受領すべきロイヤルテイをメタルの代理人として受領するよう依頼し、朝日はこれを承諾したこと、

4 メタルは、同月一九日付書面(甲第五号証)をもつて被告鋼管に対し、ロイヤルテイを右のように朝日に支払うことを要望し、同被告はこれを承諾したこと、

5 一方メタルは、同月中原告事務所に対しメタルが鋼管より受け取るべきロイヤルテイのうち、鉄鉱石一メトリックトン当り米貨五セントの割合による金員を前記法律事務処理の報酬として支払うことを約したこと、

6 そこでメタルは、同月二五日原告事務所の同意を得たうえ、朝日に対し同日付書面(甲第六号証)をもつて朝日が将来被告鋼管から受け取るべきロイヤルテイのうち鉄鉱石一メトリックトン当り米貨五セントの割合による金員を、原告事務所に対するテマンガン鉄鉱に関する法律事務処理の報酬として原告事務所に交付するよう依頼したこと、

7 なお以上は、すべて日本においてなされたものであること、

を認めることができる(但し、1の事実は原告事務所と被告カタヤマの間で、2、3の事実は原告事務所と被告らの間で、4の事実は原告事務所と被告鋼管、同カタヤマとの間で、6の事実中メタルが右書面を朝日に送付したことは原告事務所と被告カタヤマの間で、それぞれ争いがない。)。

〈証拠判断省略〉

(二)  本件各合意の性質

1 原告事業所は、右二(一)6の事実をもつてメタルと朝日の間に第三者のためにする契約が成立したと主張する。しかし、右甲第六号証は、〈証拠〉に照らせば、メタルが朝日にロイヤルテイの分配方を依頼した書面にすぎないものであつて、原告事務所をして直接朝日に対し右ロイヤルテイ中一定金額の支払いを求めうる債権を取得させる趣旨の契約の申し込みと解することはできず、その他そのように解さなければならない事情も認められない。しかも〈証拠〉によれば、原告事務所のパートナーであるローガンは、昭和三四年三月二三日ころメタルあてに、原告事務所の前記ロイヤルテイに関する諸権利の完全な実現として被告鋼管から額面三六、〇〇〇ドル同被告振出の小切手一通を受領したい旨申し入れたことが認められ、この事実は原告事務所が朝日に対して直接債権を有していないことを間接に裏付けるものである。さらに後に説示する(二(三))ところから明らかなように朝日がこれを承諾した事実も認められない。よつ原告事務所の右主張は失当である。

2 原告事務所は、メタルが原告事務所あて、メタルの朝日に対するロイヤルテイ交付請求権の一部を譲渡したものであると主張するが、右二(二)1で説示したのと同様の理由により右甲第六号証は、債権譲渡の通知とは解されず、その他右事実を認めるに足りる証拠はない。

3 右二(一)冒頭記載の各証拠からすれば、メタルは、原告事務所に対する報酬金支払いのため、メタルが朝日から直接ロイヤルテイ全額を受領することなく、原告事務所に対し、メタルに代つて朝日からロイヤルテイのうち前記割合による部分の支払いを受けることを委任し(代理受領)、この旨を甲第六号証の書面によつて朝日に連絡して協力を求めたにすぎないものと認めるのが相当である。この点について被告カタヤマ本人尋問の結果は採用しない。

(三)  代理受領の承認

〈証拠〉をあわせれば、被告鋼管は、鉄鉱石の船積が昭和三三年五月開始されたのに(このことは原告事務所と被告鋼管、同丸紅との間では争いがない。)右合意に反し、メタルに対しひいては朝日に対し前記船積毎に支払うべきロイヤルテイを、後記ロイヤルテイの一括払いの合意成立まで一回も支払わなかつたことが認められ、〈証拠〉は採用しないから、被告鋼管および朝日は、メタルの原告事務所に対する代理受領権の授与を承認したとは断定できず、その他右授与を承認したと認めるに足りる証拠はない。

(四)  ロイヤルテイの一括払い

〈証拠〉によると、同三四年四月二〇日頃メタルと被告鋼管との間において、テマンガン鉄鉱から年間三〇万メトリックトンの鉄鉱石を五か年間継続産出することを前提とし、船積毎の支払いの場合日本、マラヤ両国から二重に租税を賦課されるおそれがあることも考慮し、ロイヤルテイの金額を再検討した上、被告鋼管は前記ロイヤルテイの長期分配払いを改め、メタルに対し金五八、三二〇、〇〇〇円を一括して支払うことを約し、同日頃被告鋼管は、朝日に対しそのうち第三者によつて差押えられていた約七、〇〇〇、〇〇〇円を控除した残額を交付し、朝日は、メタルの取締役社長ボイルに対し、直ちに右金員から明日のメタルに対する金銭債権を控除した残金を交付したこと(被告鋼管がメタルに対しロイヤルテイの支払方法を変更しその全額として五八、三二〇、〇〇〇円を一括払いとする旨約し、朝日あて支払つたことは当事者間に争いがない。)、被告カタヤマはメタルの取締役であつたが(この事実は原告事務所と被告カタヤマ間のでは争いない)右差押えられた部分につき後に差押債権者と裁判外の和解をなし約二、〇〇〇、〇〇〇円を受領したこと、メタルは、主として本件テマンガン鉄鉱の開発を目的として一九四九年に設立され、以来本件ロイヤルテイ債権だけがほぼ唯一の資産であつたこと、しかるにボイルは、朝日から前記金員を受領するや、翌日これを拐帯して逃走し所在不明となり(所在不明は原告事務所と被告カタヤマ間で争いがない。)、メタルは無資力となつて、その結果原告事務所は、メタルから報酬を受領することが事実上不可能となつたことを認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

(五)  一括払いに関する被告鋼管の責任

原告事務所は、「被告鋼管は原告事務所が右報酬の満足を受けられなくなることを知りながら、メタル・朝日と共謀のうえ、右の如く一括払いとして右報酬の満足を不能としたものである。」と主張するが、そのような知情の事実を認めるに足りる証拠はなく、これにつき被告鋼管に過失ありともいえない。しかも被告鋼管に過失ありともいえない。しかも被告鋼管が原告事務所のメタルからの代理受領の受任を承認したとは認められないのであるから、このような場合に、被告鋼管がメタルとの間でロイヤルテイの額と支払方法とについて再調整をなし、被告鋼管が承認したメタルの受領代理人である朝日に対し右一括払いの金員を支払つたことは、原告事務所に対する関係で違法とはいえない。よつて原告事務所の被告鋼管に対する請求は、理由がない。

(六)  一括払いに関する被告丸紅の責任

原告事務所は、「朝日は原告事務所が報酬の満足を受けられなくなることを知りながら、メタル・被告鋼管と共謀のうえ、被告鋼管から受領したロイヤルテイを直ちにメタルに交付して右報酬の満足を不能としたものである。」と主張するが、このような知情の事実を認めるに足る証拠はなく、これにつき朝日に過失ありともいえない。むしろ、債権者メタルと債務者被告鋼管との間で前記のようにロイヤルテイの額と支払方法とが変更されて、被告鋼管が朝日あてロイヤルテイを一括提供した以上、メタルからロイヤルテイの代理受領を委任されていた朝日としては、これを受領すべきは当然である。かつ、前記のように朝日がメタルの原告事務所への代理受領の委任を承認したとは認められないのであるから、このような場合になお朝日がメタルの原告事務所に対する代理受領の委任の趣旨のとおりに行動しもつて原告事務所に右金員の一部を支払いその利益を保護すべき義務があるとはいえない。

もつとも、〈証拠〉によると、ローガンあるいは原告事務所のパートナー、ジェイ・エス・バーナードらは、朝日が右ロイヤルテイを受領する以前に数回にわたり、朝日に対し被告鋼管から受領すべきロイヤルテイはメタルに支払うことなく、前記二(一)6記載の代理受領の委任の趣旨のとおり原告事務所に支払われるべきである旨要請、通告した事実を認めることができるが、右代理受領の依頼を承認するに至らなかつた朝日に対しかように要請などをしたとしても、それ故に朝日につき原告事務所の利益を保護すべき義務が生ずるものでないことは明らかである。よつて朝日がメタルにロイヤルテイを支払つたからとてこれが原告事務所に対する関係で違法であるとはいえないから、その被告丸紅に対する、不法行為を原因とする請求は、理由がない。

なお原告事務所は、被告丸紅に対し予備的に、第三者のためにする契約ないし債権譲渡によつて朝日に対する債権を取得したとしてその履行を求めるが、前記のとおり右のような債権の取得を認めることができないので、右主張は失当である。

(七)  一括払いに関する被告カタヤマの責任

被告カタヤマは不法行為責任につき消減時効を援用するので判断する。〈証拠〉によれば、原告事務所(ローガン)は、遅くとも同三四年四月二〇日原告事務所主張の不法行為の事実関係(損害と加害者)を知つたことが明らかであるから、右不法行為による損害賠償債権の消減時効はその翌日である同月二一日から三年後である同三七年四月二〇日の経過をもつて完成すべき筋合である。

原告事務所は、右期間内の同年四月一八日または一九日到達した書面で被告鋼管および同丸紅に履行の請求をしたと主張する。しかし同被告らは前記ロイヤルテイ一括払いにつき故意過失、違法性ありとも判定できないので、その行為が不法行為を構成しないことは前述のとおりであり、従つて被告カタヤマの行為が不法行為に該当するとしても、被告鋼管および同丸紅はこれと共同したとはいえず、右請求によつては被告カタヤマに対し時効中断の効力を生ずるものではない。

本件昭和三七年(ワ)第八、四三〇号事件訴状が、右時効期間経過後の同三七年一〇月一七日当裁判所に受理されたことは記録上明らかであるから、その余の点を判断するまでもなく、原告事務所の被告カタヤマに対する請求は、理由がない。

第二、原告ウイリアム・ローガン・ジュニア、同ジョージ・エス・バーナードの請求について。

前記第一の二で判断したのと同一の理由により右原告らの請求は理由がない。

第三、まとめ

以上の次第で、原告らの請求は、いずれも理由がないので棄却すべく、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(沖野威 佐藤邦夫 加藤英継)

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